はじめに: 動き続けることで感じなくする
「何もしていないと落ち着かない」「一人で家にいるのが苦手」。そんな方は、もしかするとご自身の感情から無意識に「逃げている」のかもしれません。心理学者ジョニス・ウェブ博士は、このパターンの背景に子供期の情緒的ネグレクトがあると指摘します。感情に注目されずに育つと、自分の気持ちを認識し、扱うスキルが身につかず、大人になってからその「未処理の感情」のざわめきを、絶え間ない忙しさでかき消そうとしてしまうのです。
実践編: 少しずつ自分と一緒にいられるようになる3つの練習
無理せず、できることから始めてみましょう。
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1分間の「白い画面」練習(耐性を養う):
- タイマーを1分にセットし、目を閉じます。
- 心の中を「真っ白な画面」で埋め尽くすイメージをします。考えが浮かんでも、流し、画面を白く保ちます。
- 「何もしないでいる自分」に、たった1分間、寄り添ってみることが目的です。
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「今、どんな気持ち?」と一日一回尋ねる(気づきの練習):
- 一日一回、静かな瞬間に自分に問いかけます。「今、私はどんな気持ちですか?」
- 「ストレス」のような抽象的な言葉ではなく、「もやもや」「ほっとした」「少し寂しい」など、できるだけ具体的な感情の言葉を探してみます。ネットで「感情 言葉 リスト」を検索するのもおすすめです。
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生産性からの「10分間休戦」(自分軸を取り戻す):
- 一日のうち10分間、**「何かを生産しなくてもいい時間」**を作ります。
- ポッドキャストもSNSも聞かず、ただボーッと窓の外を見たり、お茶を味わったりします。この時間は、あなたの価値が「何をするか」ではなく「存在すること」そのものにあることを、体感するための時間です。
解説編: 感情から逃げるクセがつくわけ
情緒的ネグレクトのある家庭では、悲しみや怒りなどの感情が「扱いにくいもの」「見ないふりをするもの」として扱われがちです。すると、感情は消えるのではなく、蓋をされた鍋の中で静かに煮立っていきます。忙しさはその蓋の役割をします。しかし、静かな瞬間が訪れると、鍋の中の蒸気(漠然とした不安や不満)が音を立て始め、居たたまれない気分にさせるのです。心理療法でも、この「感情とただ一緒にいる耐性」を高めることが、心の平静と自分らしさを取り戻す第一歩とされています。
おわりに: 逃げるのをやめた先にあるもの
感情は、消し去ることのできない、あなたという人間の大切な一部です。逃げ続ければそれは敵になりますが、振り向いて向き合えば、最も信頼できる味方になってくれます。上記の練習のうち、どれか一つでも今日から試してみてください。最初は違和感や少しの不快感があるかもしれません。それは、長い間会っていなかった「本当の自分」に、再び出会おうとしている証です。あなたが逃げてきたものの正体は、結局のところ、あなた自身でした。その内側には、自分との絆、心の充足、そしてより確かな幸せの種が眠っています。
出典・詳細: この記事の元となった研究と、子供期の情緒的ネグレクトについての詳細は、Psychology Todayの Are You Running From Yourself?(英語)でご覧いただけます。